エピソード9に囚われる


Star Wars: Jedi Fallen Orderというゲームを始めた。
Apex LegendsやTitanfallを手掛けた開発会社の、2019年の話題作だ。
Xboxのゲーム遊び放題サービスに追加されたから、という積極的とは言い難い姿勢で臨んだが、オーダー66(※スター・ウォーズ用語、劇中の重大事件)を生き延びたパダワン(※ジェダイの弟子)を主人公にした作品で、ダークソウルシリーズに影響を受けたようなアクションが触っていて楽しく、もう7~8時間ほど遊んでいる。

しかし、どうにもノリきれない。
作中にはスター・ウォーズ関連作らしく、大量の小物や背景知識が導入されていて、たくさんの文書を読んだり会話を聞いたりできるが、そのあたりはほとんどノータッチ。
6割がた野生動物と戦わせるゲーム自体のダラりとした雰囲気もあるだろうが、それ以上に自分に世界に入り込む意欲が足りない。
これは、間違いなくエピソード9の影響だと思う。

エピソード9とは「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」という、シリーズ9作目にして完結編の2019年作品のことだ。
簡単に説明しておくと、スター・ウォーズは1977~1983年の”エピソード4~6″、1999~2005年の”エピソード1~3″、そして2015~2019年の”エピソード7~9″と、三部作が三部作になっているという改めて考えてもクレイジーなサーガである。
そんな中でエピソード9は全てを締めくくる最後の1本として、期待半分不安半分の状態で公開された。
不安があったのは、前作エピソード8″最後のジェダイ”が賛否両論を巻き起こしたからだ。
前の作品から10年が経ち、オリジナルのクリエイターが参加しなかったエピソード7″フォースの覚醒”が、楽しい出来ながら往年のファン向けにやや偏っていたところから、エピソード8はあえて逆張りをしまくったかのように片っ端から伝統を破壊したため、自称熱心なファンたちは裏切られたように感じ、日夜大量の批判が飛び交い、監督やキャストに殺害予告をするまでにヒートアップした。
そんな状況から続編を作るにあたってディズニーがとったのは、全てをなかったことにしてひたすら鎮火にあたるという最悪の選択だった。

エピソード8は確かに粗く性急で、にも関わらずペース配分に難があり、上映時間は長すぎた。
しかしそういった細部が気にならないくらい熱意に溢れ、過去のシリーズに頼ることのない新たな物語を創造しようという前のめりな意欲が感じられる作品だった。
40年以上積み重ねてきた”こうでなくてはいけない”という固定観念を破壊するためには、あれくらい強烈でなくてはいけなかったのかもしれない。
そんな中にもハッとさせられる演出や記憶に焼き付く映像を投じ、往年のファンよりも今のファンのほうを向く現代的なお話で、次への橋渡しをしようと努力していたのだ。
とにかく新しく面白いものを作ってやるぞという熱意に涙すら流した。
個人的にこの作品を悪く言うことなんてできないし、言ったこともないし、これからも言う気はない。
ここから生まれる完結編がどうなるものか、本当に楽しみだった。

しかしエピソード9は全てを無視した。
過去に死んだはずの悪役を無理やり復活させ、冒頭から過去見たような映像を継ぎ接ぎし、”Aというものを手に入れるためにBというものを手に入れる必要があるのでCに行こう”というような回りくどい描写を連発、キャラは2秒すれば忘れるような決め台詞を吐くだけに成り下がった。
前作で印象を残したキャラは画面に1分程度しか映らず、わざわざエピソード8で丁寧に破壊した伝統に回帰し、おまけに人物像まで退行させる。
こういうのが好きなんだろと言わんばかりの定形っぷりで何重にも塗り固め、見覚えのあるような星々を行き来し、複雑骨折した脚本のせいで信じられないほど馬鹿な手段で話をまとめようとする。
ひたすら前作で点いた火を消すことだけを考え、本当に新しい物語を作ることを放棄し、ファンのほうすら見なくなった駄作がそこにあった。
最後の最後の台詞まで失望で塗り固められた映画は、今までなかったように思う。

そんな中で一番気に入らなかったのが、自分の一番のお気に入りキャラ”C-3PO”の扱いだ。
金ピカでツルっとした見た目は、シリーズ未体験の人でも記憶にあるのではないだろうか。
年に一度の年末オフ会前に中野ブロードウェイに行き、3POのポスター持って居酒屋に行ったのも懐かしい。
写真のように今もきちんと飾っていたりするくらい、彼はお気に入りの存在だ。
C-3PO後ろを振り返ったらこのポスター

その彼もエピソード9に出てくる(シリーズ全作に出ている貴重なキャラ!)のだが、なにをするわけでもなく主人公グループについていきながら、ひたすらに役立たずだと罵られ、少し度が過ぎると思うほどに悪態をつかれてしまう。
3POにしかわからない暗号が出てきた時は遂に見せ場がやってきたかと思ったが、それを引き出すには彼の記憶を消すしかないという究極の選択が突きつけられる。
それでも彼は人に尽くすドロイドゆえに、記憶の消去を申し出て、「最後にひと目、仲間たちを見ておきたい」と言うが……。
そんな彼を見つめ返す主人公たちは、とっとと記憶を消して暗号を教えろと言わんばかりの表情。
ただただ、空虚な時間が流れた。
そして数分後、主人公たちの預かり知らぬところで記憶はあっさりと復元されてしまった。
ここでもう、自分の愛は消えてしまった。

そもそも自分がスター・ウォーズと出会ったのは1997年に公開された”特別篇(エピソード4~6を当時の最新技術で編集したもの)”で、その時リアルタイムに映画館に行ったわけではないが、家族にVHSを借りてきてもらって何度も見た記憶がある。
作中キャラのフィギュアを買ってもらったり、スター・ウォーズとコラボしたレゴを買ってもらったりしながら、ひたすらスター・ウォーズのことを考えながら遊び回っていた。
ニンテンドー64の「帝国の影」を小さい頭じゃ理解するのがやっとだったのに遊び倒し、エピソード1公開当時は映画館でライトセーバーを買ってもらって振り回して1日で壊し、大きくなってからもXbox360の「The Force Unleashed」は実績コンプするまで遊んだりしていた。
スター・ウォーズは、自分の人生の大半を共にした同志であり指導者であり、聖典だった。
表に大きく出したりはしないが、スター・ウォーズ関連のシャツを売っていたらつい手にとってしまったり、突然夜中にエピソード5を見始めたりするような、欠かせない身体の一部になっていた。
その中でもC-3POは、KFCのバーレルにつけるおもちゃを大切にとっておいたり(引っ越しの際になくしてしまった)、一番くじの時計付きフィギュアを当てるまで引きまくったり、スター・ウォーズ展でクリアファイルを複数買いしたり、上のようなポスターを飾ったりするくらい愛情の対象だった。
彼が自分にとってのスター・ウォーズだった。

映画として見れば10点中6点、9作からなるサーガを締めくくる一本としては赤点のエピソード9を見終わったあと、自分に残ったのは空っぽの身体だけだった。
そこには本来スター・ウォーズへの想いが詰められていた。
それはもう、どこかへいってしまった。

もうすぐでエピソード9公開から1年になろうとしている。
それだけの時間が流れ、激しく目まぐるしい2020年を経てもなお、スター・ウォーズへの想いは自分の身体には戻ってこない。
Jedi Fallen Orderが楽しくないわけじゃない、快適に遊ばせようという工夫もあるし、不親切な仕様にイライラもするが水準以上の良作だとは感じている。
世間ではシリーズのスピンオフドラマ「ザ・マンダロリアン」が人気だし、Star Wars: Squadronsという別の新作ゲームも発売された。
しかし全く興味を惹かれない。好奇心や忌避の感情すら浮かばない。
ただただ、その他たくさんのコンテンツの山を形成する一区画にしか映らなくなってしまった。
もしかしたら「ザ・マンダロリアン」を見てみるとスター・ウォーズへの愛情が少しは戻ってくるかもしれない。
Squadronsが傑作ゲームでずっと遊び続けるかもしれない。
でもそれらはスター・ウォーズ本編ではないし、そもそも手を出すまでに動かない。
世の中には大量の面白いものがある。
そちらを摂取するのに忙しい。

これは”終わりよければ全てよし”が逆転してしまった時の話で、ひとつのコンテンツに縛り付けられた哀れな人間の話だ。
Jedi Fallen Orderはクリアまで遊ぶだろうし、もしかしたら実績コンプを狙うかもしれない。それでもおそらくは”良作だけど自分には合わず~”という感想止まりになるだろう。
スター・ウォーズがあんな終わり方をしたことで、これから自分は永遠にスター・ウォーズに囚われることになった。
抱えきれないほどの愛情と親しみからくるものではなく、冷たく暗い感情に。
ひたすらに悲しいが、その悲しみはどこから来たのだろう。
愛するスター・ウォーズへの興味を失ったことからか、自分の幻肢を探し続ける虚しさからか。
ともかく、ポスターを剥がす予定は当分なく、ロゴの入ったパーカーを捨てるつもりもない。
失ったコンテンツへの帰属表明を惰性で続けながら、今日も野生動物を狩り続けている。

失望だけでブログを書いて長文になったのに見返しも編集もせずに投稿するの、本当にやめたほうがいいよ。
3800文字て。
あとパスワード忘れたところを無理やり頑張って久々にログインしたら投稿画面変わり過ぎでわけわからんわ。

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